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肝胆膵外科について

【はじめに】

 おなかの上の方にある臓器を簡単な図で示すと、このようになります。
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 特に、肝臓・胆嚢・胆管・膵臓は、お互いが密接に関係しており、いわゆる肝・胆・膵領域として、ひとまとめに扱われることが多いです。 肝・胆・膵領域の病気にはさまざまなものがありますが、特に「がん」の診断と治療が問題となります。なぜなら、肝がん・胆道がん・膵がんは、「がん」の中でも特に治りにくい予後の不良な「がん」の代表であるためです。「がん」は言い方をかえると「悪性腫瘍」という病気のことです。「がん」という病気は、はじめは小さく1箇所にとどまっていますが、時間が経つと周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移したりして、やがて命を奪ってしまうために「悪性」と呼ばれます。理屈の上では、たとえ「がん」であっても、体から完全に取り除くことができれば治ります。逆に言えば、ほとんどの「がん」は、転移をしていない段階で手術によって「がん」の部分を完全に取り除く以外に、治せる方法はありません。「肝胆膵がん」は、早期に発見することが難しく、浸潤や転移を容易に起こしてしまうことに加え、お腹の中でも大事な血管に近い複雑な場所にできてしまうことが多く、手術の難易度も高くなります。肝・胆・膵領域の病気に対しては、「がん」が有るのか無いのか、「がん」ならばどれぐらいの進み具合なのかを調べるために、多くの検査が必要となります。また、手術による切除で根治がのぞめる場合は、長時間の手術が必要になることがほとんどです。一方で、大事な血管などへの浸潤や他臓器への転移などで手術による根治が望めない場合は、病気の進行を遅らせる抗がん剤治療などがあります。 高齢化社会に伴って「がん」の病気はますます増えてきており、皆様の不安を少しでも軽減し、適切な診断・治療を行っていくことが使命と考えております。ここに記載している内容は最小限かつなるべく簡単な内容になっておりますが、少しでもご参考になれば幸いです。

【肝がん】

  肝臓にできる「肝がん」は原因によって、肝臓に直接発生する「原発性肝癌」と、他の臓器の癌から飛んでくる「転移性肝癌」に分けられます。原発性肝癌は、ウイルス性肝炎やアルコール性肝硬変・脂肪肝などを背景とした「肝細胞癌」や「肝内胆管癌」が大部分を占めます。転移性肝癌は、多くが大腸癌(結腸癌・直腸癌)によるものです。肝臓の中に「がん」ができても、初めのうちは症状や血液検査には異常が出ずに、超音波・C T・MRIなどの画像検査で見つかることがほとんどで、大腸癌の術後であれば、定期的に測定する腫瘍マーカーの変化で見つかる場合もあります。特に、慢性肝疾患(B型肝炎・C型肝炎)を患っておられる方は、定期的な画像検査による早期発見が重要です。 治療方法は、「肝臓の予備能力」と癌の大きさや位置・数などのバランスによって決められます。肝臓の予備能力は、症状・血液検査・画像検査などによって総合的に判断され、予備能力が大きい場合は、肝臓全体の6割程度まで安全に切除することが可能となります。癌の大きさが同じでも、肝臓の表面にできた場合と、内部の奥深いところにできた場合とでは、切除する範囲がかなり異なってきます。
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 肝臓の予備能力が小さい場合は、なるべく多くの肝臓を残さなければならないため、表面で小さければ癌の部分だけをくり抜くように切除するか、内部であれば体の外から細い針を刺して行う「ラジオ波焼灼療法」などが選択肢となります。数が多い場合や大きい場合は、カテーテルによる「肝動脈化学塞栓療法」などの内科的治療が薦められます。大腸癌の肝転移の場合は、抗がん剤による全身化学療法を行って癌を小さくしてから切除するという方法もあります。肝細胞癌に対しては、今まであまり有効な抗がん剤がありませんでしたが、最近効果のある抗がん剤が登場してきており、治療の選択肢が増えています。

【胆道がん】

「がん」ができる場所によって、肝門部領域癌・遠位胆管癌・乳頭部癌・胆嚢癌に分けられ、特徴や治療法も異なってきます。
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 胆道癌は目や皮膚が黄色くなる「黄疸」や、血液検査の異常によって見つかることが多く、また、画像検査で胆管が太く拡張していることで見つかる場合もあります。黄疸がある場合、まずは黄疸を解除するために、癌で狭くなった場所への内視鏡によるステント挿入や、拡張した胆管に対して体表からの穿刺ドレナージが必要になります。
 
 肝門部領域癌は、肝臓の中の胆管が全て集まる根元の部分にできるため複数の胆管を詰まらせてしまい、黄疸を解除するまでに長期間を要することがあります。また、肝臓の血管もこの場所に密集しているため、胆管だけを切除することはできず、病変部の位置によって肝臓の右半分あるいは左半分とともに胆管を切除し、残った肝臓の胆管と小腸をつなぎ合わせる大きな手術になります。
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 遠位胆管癌は、膵臓を貫いている部分の胆管が詰まることで黄疸が出現します。この部分は膵臓と一体化しているため、切除するためには膵臓の頭の部分と十二指腸を一緒に切除する、膵頭十二指腸切除術という手術が必要になります。膵臓・十二指腸・胃の一部・肝外の胆管を一塊で切除して、膵臓と小腸・胆管と小腸・胃と小腸をつなぎ直し、食べ物の流れ道を新しく作ります。
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 乳頭部癌は、十二指腸にあるファーター乳頭部という胆道の出口を詰まらせますが、この出口は膵臓から出る膵液の通り道である膵管の出口にもなっており、黄疸以外にも膵炎など様々な症状が出現します。切除のためには遠位胆管癌と同様に、膵頭十二指腸切除術が必要になります。胆嚢癌は、小さいものは胆嚢内のポリープや壁の肥厚によって見つかり、胆嚢と場合によっては肝臓の一部を削りとるような手術で切除します。明らかに進行した胆嚢癌は、周囲の胆管・肝臓・膵臓・十二指腸などに浸潤し、手術による切除が難しくなってしまうことがほとんどです。胆道がんは胆管炎との戦いでもあり、胆管炎の治療のために胆道ステントの交換などが頻回に必要になることがありますが、消化器内科と協力のもと、必要性を常に考慮しながら安全に行なっています。

【膵がん】

 膵がんの多くは浸潤性膵管癌というものであり、見つかった時には約半数の患者さんが切除不能という、肝胆膵がんの中でも特に見つけづらく治しにくい病気です。しかし、膵臓の頭の部分(膵頭部)にできた場合には、癌による胆管や膵管の閉塞により、黄疸や膵管拡張という症状・変化をきたしやすく、早期発見につながる可能性があります。また、I P M N(膵管内乳頭粘液性腫瘍)と言って、膵臓内の膵管そのものが太く拡張するタイプの膵がんもありますが、こちらは比較的ゆっくりと進行する特徴があり、経過を見ながら手術の必要性を検討することが多いです。膵頭部にできた病変に対しては、膵頭十二指腸切除術と言って、膵臓・十二指腸・胃の一部・肝外の胆管を一塊で切除して、膵臓と小腸・胆管と小腸・胃と小腸をつなぎ直し、食べ物の流れ道を新しく作る手術が必要になります。膵癌の場合は特に、門脈や神経叢という場所にも浸潤しやすく、胆道癌に対する膵頭十二指腸切除術よりも切除の難易度が高くなります。
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 膵臓のお尻の部分(膵尾部)にできた場合は、膵体尾部切除術と言って、膵臓の端につながっている脾臓と一緒に切除します。
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 膵臓の手術は、強力な消化酵素である膵液の漏れとの戦いです。ある程度の頻度で膵臓の切離部分から膵液が漏れ出てきてしまうので、丁寧な手術はもちろんのこと、膵臓に負担の少ない縫い合わせ方や、大事な動脈を肝円索という組織でカバーするなど、様々な工夫で安全性を高めています。膵癌は手術で取りきれた場合でも、細胞レベルの転移が多く、術後の再発が多い病気です。最近では、まず抗がん剤による全身化学療法を行ってから手術を行う方が手術治療の成績が良いことがわかってきており、患者さんの状態に合わせて適切な治療を選択しています。

【抗がん剤】

 肝胆膵がんにおいては、手術前の一通りの画像検査で転移がないと判断されても、手術中や手術後早期に転移が見つかることが多い病気です。また、発見時にすでに転移をしていることもしばしばあります。このような場合は、手術で治すことが難しいため、病気の進行を遅らせる治療として、抗がん剤治療が選択肢となります。抗がん剤は、「がん」の種類によって効果のある薬剤が異なっており、それぞれの病気の種類に応じて、適切な薬剤・治療法を選択していきます。点滴の薬剤もあれば内服の薬剤もあり、点滴と内服を組み合わせて行う治療もあります。また、抗がん剤は基本的には「細胞を殺す薬」であり、身体の病気以外の部分にもダメージを与えてしまうため、さまざまな副作用が出現する可能性があります。抗がん剤治療は、「しなければならない」治療ではありません。その目的と効果を十分に話し合って、患者さん本人の希望と照らし合わせながら行い、体調などによって、途中で減量したり休憩を入れながら、日常生活とのバランスをとった治療を行っていきます。

【緩和治療】

「がん」に対して、手術による切除が不可能であったり、手術後に再発・転移をした場合には、上記のように抗がん剤を中心とした様々な治療が行われますが、残念ながら現時点では完全に治せることは少なく、最終的には治療が難しくなってきます。しかし、病状の程度によって出現する、「痛み」や「だるさ」、「むくみ」などの「つらさ」を和らげることに関しては、諦めることはありません。痛みは必ずしも出現するわけではありませんが、痛み止めの薬などは多くの種類があり、かつ日々進歩していますので、可能な限り痛みのない状態を目指していきます。また、病気の状況によっては腸閉塞や消化管出血などが出現することがあります。そのような症状が出現した場合には、「がん」そのものを治すことはできませんが、「症状」を治して日常生活に戻るために、バイパス術などの手術をお薦めすることがあります。当院の緩和ケア科や、地域の在宅医療機関等とも協力しながら、患者さんのご希望に沿った医療を行っていきます。

【おわりに】

当院では、「肝胆膵がん」に対するほぼ全ての手術を行うことができますが、肝臓や腸を栄養する重要な太い動脈に病変が食い込んでいたり、肝臓や膵臓の大部分を同時に切除する必要がある場合など、対応が困難な手術が予想される場合には、東京医科歯科大学肝胆膵外科などと緊密な協力体制をとっております。 「がん」の診断と治療においては、術前の検査や術後の経過観察、抗がん剤治療などで、頻繁かつ長期に渡り通院する必要が多くなってしまいます。皆様にとって、受診や通院がしやすく、急な場合には迅速に対応し、そして最善の医療が受けられるよう、今後とも診療内容の充実に取り組んでまいります。

外科副部長 光法雄介